瞬間移動

薬剤師の白衣には、大概胸元にポケットが付いており、そこによく使うペンなどを入れているものである。
私服の時にも、ペンを使用した後にはついつい胸元に戻す動作をしてしまうくらい、胸元のポケットを使うのは習慣になっている。
今日は、自前の白衣を家に忘れてしまった為、父のか母のだか分からない白衣を適当に着て仕事をしていた。
少し大きくしっくりこないなと思いながらも、今日一日の我慢と気にせずに仕事をしていた。
が、途中から一つ、サイズではない別の事で違和感を覚え始めた。
ペンを使おうとすると、胸ポケットにペンが入っておらず、腰の高さについてあるポケットの方にペンが入っていることが何回か続いたのだ。
いつもの白衣と着ている感じが違うので、無意識のうちに下のポケットに入れてしまっているのかとはじめは思ったが、どうも違う気もする。
意識して胸ポケットにペンを戻してみても、次にペンを使う頃になるとやはり消えてしまっている。
おかしい、どういうことなのか、狐につままれたようだとはこのことか。

なんのこっちゃない。
あっと気が付けば、胸元のポケットに目立たない穴があいていたのだった。
私がごそごそ動いているうちに、胸ポケット底の穴をすり抜けて、何度も何度も上手いこと下側のポケットに入っていたらしいのだ。
しょうもないことだが、ようやくからくりを理解した私は、妙にすっきりとした気分でその後の仕事を頑張れたのでした。