調剤薬局で処方箋が必要な理由

「病院に行って診察を受ける時間がないので、薬だけ下さい」
患者さんから時々言われることですが、今回はそれができない理由をご説明いたします。

 まず、処方箋に載っている内容を説明します。処方箋には患者さんの氏名・誕生日や年齢、保険証番号、公費負担番号、処方した病院名と科名・医師名、医薬品名や医薬品の一般名、飲み方、その他の注意事項や場合によっては患者さんの住所まで載っています。処方箋を見れば、どこの誰がどんな病気で、社会的環境や立場(例えば会社員である、団体職員である、ひとり親である、生活保護を受けている、など)がわかってしまいます。かなり重要な個人情報ですよね?紙切れ一枚といえばそう見えてしまうのですが、実は、間違いなく患者さんご本人を特定して確実にお薬を飲んでいただくための、超重要な情報が満載されています。

 また、お薬をお渡ししたときの代金は、総額のうちの1割や3割など、患者さん各々の保険や公費負担に応じてご本人から頂戴し、残りの9割や7割や全額は、国民から徴収された医療費から、健康保険組合などを通じ、薬局が「保険請求」して頂戴しますので、当然、全てが整った内容の請求をしなければ、薬局の収入にならない制度になっています。例えば、保険証番号が一つ違っただけで、氏名や生年月日が正しかろうが、全くの別人になってしまいますので、保険料は一切支払われません。

 調剤薬局と病医院がどんなに近くにあっても、経営主体は全く別なので、処方箋に記された事以外の患者さん情報は、伝わってきませんから、初回来局時は改めて問診票をお願いすることになります。それに処方箋に書いてある保険証の番号などは、あくまで「人の手で書き写したもの」ですから、間違いのないよう確認させていただきます。

 以上のように、調剤薬局で扱うお金もお薬も、「公」の名のもとに厳重に取り扱われるべきものです。通常の商売などに関する法律はもとより、医師法、医療法、薬事法、薬剤師法などの医事薬事関係の法律に、かなり厳密に縛られており、決まった手順を踏まない場合は全く融通が利かない環境ですので、指定された期間内(処方箋が発行された日を入れて4日以内)に持ってきていただいた、正しい処方箋と引き換えでなければ、お薬をお渡しすることができません。

もちろん、薬剤師自身が患者になることもあるので、「何とかならないか」と思う気持ちもわかるのですが、上記の理由をご理解の上、大変お手数ですが、主治医に処方箋を出してもらって、期限内にお薬を取りに来ていただくようお願いします。また、問診票の記載や保険証の確認も、ご協力いただくよう、併せてお願い申し上げます。