マリントキシンについて

四方を海に囲まれた島国に住む我々は、海から豊富な幸を得て生活しています。食卓には豊富な魚介類が供される一方で、フグによる中毒、麻痺性貝毒や下痢性貝毒による中毒など、あまり好ましくない面で人間生活とも関わっています。これら海洋生物に由来する自然毒を総称して「マリントキシン」と呼んでいます。
 マリントキシンは「食べて危ない毒」と「刺されて危ない毒」に分けることができます。「食べて危ない毒」には、フグ毒、シガテラ毒、パリトキシン、麻痺性貝毒、下痢性貝毒などがあげられます。「刺されて危ない毒」には、魚類の刺毒(エイ類、アイゴ類など)、刺胞動物の刺毒(クラゲ、イソギンチャク)などがあります。ここでは、「食べて危ない毒」について話を進めていきます。
フグ毒
 フグ毒はすべてのフグが持つかというとそうではありません。日本沿岸で獲れるシロサバフグ、クロサバフグ、クマサカフグ、ヨリトフグからはフグ毒はみつかっていません。有毒種とされるフグでもそれぞれの個体で違いがあり、臓器により大きな違いがあります。
 フグ毒は長年、フグ類のみがもつと信じられてきました。しかし、1964年、カリフォルニアイモリからテトロドトキシンが検出され、その後、ツムギハゼ、小型のカエル、ヒョウモンダコなどからテトロドトキシンが検出されています。
このように、広範囲の生物からフグ毒が検出されると、毒を持つ生物が自分で毒をつくっているのではないと考えられるようになりました。この説を決定的にしたのは、次のことからでした。
① 孵化させたクサフグを水槽にいれ毒を含まない飼料で飼育したところ、肝臓でも毒性は認められなかった。
② 無毒の養殖トラフグにフグ毒を混ぜたエサを与えると毒性が確認された。
 このことから、テトロドトキシンはフグの体内で作られるのではなく、外的要因(エサ)によりフグに蓄積されることがわかりました。さらに、一般の海洋細菌であるビブリオ菌(V.alginolyticusなど)からもフグ毒が検出されたことから、フグ毒を作っているのはいくつかの種類の細菌であると考えられています。フグのテトロドトキシンによる毒化機構は、それら生物が食べるエサに由来しています。フグ毒産生海洋細菌により産生されたフグ毒が食物連鎖の下位の動物から上位の動物へと蓄積されます。
 フグの自家調理はしないよう、調理に携わる人、販売に携わる人の意識改革が必要です。