作り手と使い手の間で思いをつなぐ〈うつわのみせ 大文字〉
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夏の出窓には貝合わせの貝殻と、ヒトデにタツノオトシゴ。前に見た時は鮎。その前は陶器のゼンマイがにゅっと土から伸び上がった態(てい)で春を知らせていた。通る度に出窓の設えが楽しみなこのお店は和食器専門店。東京は表参道の「大文字」の代表、内木雅子さん(写真)にお話を伺った。
何事も控えめ、それが「大文字」の印象。場所は表参道だが、賑やかな青山通りからは少し奥に入る。「開店当時はこの辺は住宅街で、なぜ青山通り沿いでやらないのかと言われたそうです」と内木さん。埼玉県出身のお父さまは元々印刷会社にお勤めだったが、器好きが高じて「たち吉」に入社。本社がある京都に家族で移住したのは、内木さんが幼稚園の時。家族で京都に住んだ5年間はきっと大切な時間だったのだろう。店名は京都に因んでいる。「京都で〈大文字〉なんて名乗る勇気はないけれど、関東モンなので許していただければと(笑)」。東京に戻り、最初に開いたお店は青山通りに面したマンションの一室で、ショールームのようだったという。2年後、路面店の物件を探し、新築ビルの一階に入った。それが約40年前。
まずは店内をひと回り。中央に季節商品が並ぶ島。夏はガラスの器が涼しげ。「箸置きはこれ一つで季節感が出るのでおすすめです」。島の周りをぐるりと通路が巡り、歩きながら商品をゆったりと見ることができる。入り口を入って右側は豆皿やスープマグなどの定番商品で開店当初からあるものも。酒器のコーナーは内木さん自身がお酒好きなこともあり日本酒用だけに限らずワイングラスも、と増殖中。そして作家もの、ご飯関係、と視線が途切れることがない。
入り口を入って左側の棚には「石川県産品 応援フェア」とあり、九谷の器が。今年元日に発生した石川県能登地方を震源とする地震は記憶に新しい。心配で九谷の窯元に連絡すると、商品は割れたが幸い人的被害はなかった。「ぜひ来て」という言葉を受け一月中旬に訪れた。倉庫はぐちゃぐちゃになっていたが、残っているものを「ここからここまで全部ください」と買い取り、販売利益を寄付しようとしたところ、九谷よりも大変な輪島へぜひ、と言われ、石川県立輪島漆芸技術研修所へ寄付することにしたという。
まずは店内をひと回り。中央に季節商品が並ぶ島。夏はガラスの器が涼しげ。「箸置きはこれ一つで季節感が出るのでおすすめです」。島の周りをぐるりと通路が巡り、歩きながら商品をゆったりと見ることができる。入り口を入って右側は豆皿やスープマグなどの定番商品で開店当初からあるものも。酒器のコーナーは内木さん自身がお酒好きなこともあり日本酒用だけに限らずワイングラスも、と増殖中。そして作家もの、ご飯関係、と視線が途切れることがない。
入り口を入って左側の棚には「石川県産品 応援フェア」とあり、九谷の器が。今年元日に発生した石川県能登地方を震源とする地震は記憶に新しい。心配で九谷の窯元に連絡すると、商品は割れたが幸い人的被害はなかった。「ぜひ来て」という言葉を受け一月中旬に訪れた。倉庫はぐちゃぐちゃになっていたが、残っているものを「ここからここまで全部ください」と買い取り、販売利益を寄付しようとしたところ、九谷よりも大変な輪島へぜひ、と言われ、石川県立輪島漆芸技術研修所へ寄付することにしたという。
品揃えは、開店当初はほぼ京都のものだったが、今は特に産地を意識することはない。変わらないのはコンセプト。「良質で、かつ手頃な値段で提供できる普段使いの器をブランド名や作家名に頼ることなくセレクトする」。内木さんが解釈を添える。「青山通りの高級スーパーで日々の買い物のついでに器を見にいらっしゃる方が父の時代には多かったので、そういう経済的に余裕があって、美味しいものがお好きな方が、お家で鮭や納豆など普段の食事の時に使う食器を提供するというのが父の考えだったようです」
時が流れ、今の主な客層は「私と似たような境遇」と内木さん。お年寄りと若者の中間で、食べることや料理が好きで、大変な贅沢はできないけれどちょっといいものを持ちたい、そういう方が買いたくなるものを揃える。だから、品質と同じぐらい価格に目を光らせる。高すぎず、かと言って安すぎるものは置かない。上限は決めていないが1万円を超えると割ったときのショックが大きい。和食器は5客セットが主流だが、必要な数を求められるようにほとんどのものがバラ売りなのも開店当初から。
時が流れ、今の主な客層は「私と似たような境遇」と内木さん。お年寄りと若者の中間で、食べることや料理が好きで、大変な贅沢はできないけれどちょっといいものを持ちたい、そういう方が買いたくなるものを揃える。だから、品質と同じぐらい価格に目を光らせる。高すぎず、かと言って安すぎるものは置かない。上限は決めていないが1万円を超えると割ったときのショックが大きい。和食器は5客セットが主流だが、必要な数を求められるようにほとんどのものがバラ売りなのも開店当初から。
内木さんがご両親に感謝しているのは「食器を割っても決して叱られなかったこと」。おかげで器を嫌いにならなかったし、割れない使い方を学習できた。そんな内木さんがお店を継いだのは2014年で、その10年ほど前に入社。それまではスキューバダイビングのインストラクターや料理研究家のアシスタントをしていた。自分でもまさか食器屋になるとは思っていなかったそうで、「流れに流されてきただけ」と謙遜するが、料理の腕を生かしたインスタグラムの投稿は器の魅力を存分に伝えているし、「父は器の良さを見ていたのに対し、私は使いやすさを見ていると思います」と我が道を歩んでいる。
お店の役割を内木さんは、「使い手に近い立場から、その声を作り手に伝えること」と言う。大きさや形、色など、作り手の創作意欲と、買い手が欲しいものを寄せていく。また、「作り手の思いや手法など、商品のストーリーを伝えるのも私たちの仕事」。窯元では成形や絵付けに女性が多く従事している。内木さんはよく、もしこの土地に生まれていたらと想像するそう。窯元で夕方まで働き、帰宅してお母さんに戻る、そんな彼女たちの思いを伝え、作ったものに光を当てたいという。
お店の役割を内木さんは、「使い手に近い立場から、その声を作り手に伝えること」と言う。大きさや形、色など、作り手の創作意欲と、買い手が欲しいものを寄せていく。また、「作り手の思いや手法など、商品のストーリーを伝えるのも私たちの仕事」。窯元では成形や絵付けに女性が多く従事している。内木さんはよく、もしこの土地に生まれていたらと想像するそう。窯元で夕方まで働き、帰宅してお母さんに戻る、そんな彼女たちの思いを伝え、作ったものに光を当てたいという。
最後に、お店の作りで面白いと思ったのは、売れ筋により一軍と二軍に場所を分けていること。一軍はメインのフロアにあり、二軍は奥の受注販売コーナーにある。人気の移り変わりで下剋上もある。器の背景も大切にする眼差しがこのシステムを作ったのだろうかと想像する。
そうか、お店は作る人自身なのだ。
そうか、お店は作る人自身なのだ。
(写真と文 篠田英美)
うつわのみせ 大文字
東京都渋谷区神宮前5丁目48-3電話/03-3406-7381
営業時間/11:00~19:00 定休日/第3日曜日・年末年始