物忘れや認知症は薬で治せるのか?

2015年12月、厚生労働省が「オンジ」という生薬(オンジ製剤)に「中年期以降の物忘れの改善」と明記することを認め、これを受けて、数社からオンジ製剤が第3類医薬品として発売となりました(「キオグッド」、「ワスノン」、「メモリーケア」など)。しかし、厚生労働省はその後、オンジ製剤の広告において、「記憶機能の活性化」、「脳神経細胞の増加や再生」、「脳全体が活性化する」、「既に忘れてしまった記憶を蘇らせる」といった、効能を誤解させるような表現がなされたことを重く受け止め、オンジ製剤について「認知症の予防や治療に対する効果は認められていない」と、2017年10月に異例の通知を出し注意喚起しました。

ここでの表現でわかりにくいのは、「中年期以降の物忘れ」と「認知症」の違いです。記憶は、①“覚える”、②“蓄える”、③“思い出す”の三段階からなっていて、人は誰でも加齢と共に脳の機能が衰え、年相応の自然な物忘れがみられるようです。加齢による物忘れは、③の“思い出す”機能が低下することが原因で、覚えていることを思い出すまでに時間がかかるために起こるとされています。例えば「朝ごはんに何を食べたか思い出せない」などで、これは「認知症」とは違います。一方、「認知症」の場合には、「食事をしたことを覚えていない」といった”そのこと自体”を覚えていられないことで、これは記憶の初期段階①の“覚える”ことが出来なくなることによって生じます。

現在、認知症の治療薬は、進行を遅らせる医療用医薬品が数種類あるに過ぎず、根本的な治療に繋がるものではありません。また、オンジ製剤の効果に関しても、根拠となった論文はデータ数が少なく、評価についても疑問視する意見があります。薬に対する過度な期待はしない方がいいのでしょう。