小さな町の子供たち
施設に薬を届けた帰り道、押しボタン式信号機が黄色から赤に変わり、私の車と対向車一台が停止した。その間の横断歩道を小学生の女の子が歩いて渡っていく。
と、渡り終えたその子が、くるっと道路の方に向き直り、かぶっていた帽子をとって、こちら側と対向車側のそれぞれにお辞儀をして去って行った。
以前にも、信号の無い横断歩道前で停車して、小学校低学年くらいの男の子達5、6人を先に渡るように促すと、小走りで渡りながら帽子を取って両側の車にお辞儀をしながら渡る姿に遭遇したことがあった。
この町の小学生や中学生は、道で出会った人には見知らぬ人であってもきちんと挨拶ができる。高校生の中にも挨拶をしてくれる子がいて、少し驚きながら挨拶を返すこともある。
彼らは、礼儀の教育を受け、ごく当たり前のこととして実行している。大人で、通りすがりの車や歩行者に、あそこまで気持ちの良いお辞儀や挨拶ができる人はなかなかいないのではないかと思う。
彼らの姿を見ていると、かつて中学校までを同じような環境で同じように生活していた自分が、ずいぶん変わってしまったと感じる。相手を見たり、勇気が出るか出ないかによったり、気分によって行動したりして。あの頃の潔さはどこに置いてきてしまったのだろうか。子供達の方が、よほど立派だと思う。
小さな町で生まれ育った子供たちが、この先大人になっていっても、彼らの持つ良いものをずっと大事にして欲しいと願う。早くこの町から出たくて飛び出した私のように、気が付かずに失ってしまってからでは遅いのだから。