傷寒論 傷寒例 第二十三條

夫陽盛陰虛汗之則死下之則愈陽虛陰盛汗之則愈下之則死夫如是則神丹安可以誤發甘遂何可以妄攻虛盛之治相背千里吉凶之機應若影響豈容易哉況桂枝下咽陽盛則斃承氣入胃陰盛以亡死生之要在乎須臾視身之盡不暇計日此陰陽虛實之交錯其候至微發汗吐下之相反其禍至速而醫術淺狹懵然不知病源爲治乃悞使病者殞歿自謂其分至令冤魂塞於冥路死屍盈於曠野仁者鑒此豈不痛歟。

それ陽盛陰虛之を汗すれば則ち死し之を下せば則ち愈ゆ、陽虛陰盛は之を汗すれば則ち愈え之を下せば則ち死す、夫れ是くの如くなれば則ち神丹も安(いずく)んぞ誤りを以て發す可き、甘遂も何(なん)ぞ妄りを以て攻む可き、虛盛の治は相背くこと千里吉凶の機は應ずること影響の如し豈(あ)に容易ならんや、況(いわ)んや桂枝咽を下りて陽盛んなれば則ち斃(たお)れ承氣胃に入り陰盛んなれば以て亡ぶ、死生の要は須臾に在り身の盡るを視るは日を計ふるに暇あらず、此れ陰陽虛實の交錯は其の候至って微に發汗吐下の相反するや其の禍至って速なるに醫術淺狹にして懵(ぼう)然(ぜん)として病源を知らず治を爲せば乃ち悞(あやま)り病者をして殞歿(いんぼつ)せしめ自から其の分と謂はしむ、冤(えん)魂(こん)をして冥路を塞がしめ死屍(しし)をして曠野(こうや)に盈(み)たしむるに至る、仁者は之を鑒(かんが)み豈(あ)にかなしまざらんや。

一般に陽盛陰虛というのは、これに汗させると則ち死んでしまう、これを下せば則ち愈える、陽虛陰盛というのは、發汗すると則ち愈え、これを下せば則ち死んでしまう、そもそも是のように、則ち神丹もあやふやな考え方で誤って發汗劑として用いる事ができるだろうか、甘遂もどうしていいかげんな考え方で下劑として妄りに攻めることができるだろうか、虛盛(陽盛陰虛)の治、相い反すること千里、吉凶の機が虛盛の治に應ずることが正確で速やかである、なかなか容易な事ではない、況んや桂枝が咽を下り、陽が盛んだと即ち斃れ、承氣が胃に入ると、陰が盛んだと亡び、死と生がはっきりとわかるのは、時間はかからない、死ぬのを視るのは時間は掛からない、此れ陰陽虛實の交錯、其のしるしが極めてかすかである、發汗や吐下の相い反すること、その禍は至って速く、であると醫術の淺く狹いと、頭をいくら使っても病の源が分からない、治を誤ると病者を殞歿(いんぼつ)(死なせる)させてしまう、遺族に運命だったと言わせる、恨みつらみの魂が冥路を塞がせ、死屍が曠野に盈れ、仁者は心を痛めないでいられるだろうか。