傷寒論 太陽病上篇 第三十一條

問曰證象陽旦按法治之而增劇厥逆咽中乾兩脛拘急而讝語師曰言夜半手足當溫兩腳當伸後如師言何以知此荅曰寸口脈浮而大浮則爲風大則爲虛風則生微熱虛則兩脛攣病證象桂枝因加附子參其間增桂令汗出附子溫經亡陽故也厥逆咽中乾煩燥陽明内結讝語煩亂更飮甘艸乾薑湯夜半陽氣還兩足當熱脛尚微拘急重與芍藥甘艸湯爾乃脛伸以承氣湯微溏則止其讝語故知病可愈。

問ふて曰く證陽旦に象りたれば法を按じ之を治したるに增劇厥逆し咽中乾き兩脛拘急して讝語す、師のたまひて夜半に手足まさに溫まるべく兩腳まさに伸ぶべしと言はれたるに後に師の言はれたるが如くなりぬ、何を以て此れを知られたるや、荅へて曰く寸口の脈浮にして大、浮は則ち風となし大は則ち虛となす、風は則ち微熱を生じ虛は則ち兩脛攣る、病證桂枝を象りたるに因り附子を加へて其間につらぬ桂を增して汗を出ださしむれば附子は經を溫むれども亡陽するが故に厥逆咽中乾き煩燥し陽明内に結ぼれ讝語煩亂す、更に甘艸乾薑湯を飮ましむれば夜半に陽氣還り兩足當に熱すべし、脛尚ほ少しく拘急すれば重ねて芍藥甘艸湯を與ふ、爾かすれば乃ち脛伸ぶ、承氣湯を以て少しく溏せしむれば則ち其の讝語止む故に病の愈ゆべきを知りぬ。

おたずね致しますが、病證が桂枝湯のとおりであったので、法則にしたがって、これを治療したところが、治するはずの病が增々激しくなって、手足が先の方から冷えて來て、のどの中も乾いて兩足の脛がつっぱりつまって、うわごとをいうようになってしまった。
 師が曰われるのには、夜中に当然手が溫かになるべきであり、そうすると兩脚が当然伸びるはずであると、後師の言われるとおりであった。どういうわけでこれがわかるのでしょうか。
 荅えて言われるのには、寸口の脈が浮いて大きい場合に、寸口の脈の浮は、風邪によって起きているし、大は血虛が原因である。風邪は微熱を生ずるし、血虛は兩足の脛が痙攣するようになる。病證が桂枝湯に似ているから桂枝湯を与え、また桂枝湯に附子を加えて、何回かやって見た。更に桂枝の量を增して汗を出させてやった。附子とは經を溫めるのであるが、それは陽が少ないからである。手足が冷えて咽中が乾き苦しくて病邪が内に結ぼれ、うわごとをいって苦しがる時には、更に甘艸乾薑湯を飮ませれば、夜半に陽氣がもどって來て、兩足が溫かくなって來るはずである。
 脛がなおすこしく拘急していれば、その上に芍藥甘艸湯を服用させなさい。そうすれば脛も伸びて樂になるのである。承氣湯ですこしく軟便がつけば、その内熱から來るうわごとは、治るのである。だから病が治るということが分るのである。