はあとだより 10月
物忘れにも「羚羊角」
〈忘却の彼方〉 短な漢字には感慨深いものがあります。例えば「息」という漢字は、心の上に自分の「自」が載っています。普段、呼吸は自覚もされず、自動的になされていることが自然です。それが「どうしよう」と思うようなことが起こると、一瞬にして呼吸は乱れます。息が止まりそうになり、息が浅くなります。
そのような状況になると、頭の中にも変化が起こります。「どうしよう」と思った瞬間、頭が真っ白になります。すると大事なことが一つ、頭からこぼれてしまうようです。物忘れの「忘」は、心の上に「亡くす」の「亡」が載っています。困ったことに忘れてはならないことほど、瞬時に忘却の彼方へと去っていくようです。
物忘れをするときも、同じようなプロセスを辿っているような気がします。忘れてはいけないという思いを遮断する急用が飛び込んできて、意識の方向が変わったままとなり、その結果として忘れ物になるのです。大事なことを記憶し続ける力、思い出す力が衰えてきたと感じたら羚羊角です。忘れ物は、スマホ疲れや睡眠不足でも起こりやすくなります。